4/1 KH-13-3航海のブログを始めました



2013年4月2日から5月1日まで行われる学術研究船白鳳丸の研究航海の模様をお伝えしていきます。航海中のブログは初めてで、不慣れな面もあると思いますが、よろしくお願いいたします。お聞きになりたいことがありましたら、ぜひコメント欄に書いてください。

3月28日には晴海埠頭で研究機材の積み込みが行われました。トラック3台、コンテナ2つ分の荷物が4000トンの船の中に運び込まれ、各研究室に振り分けられていきます。

KH-13-3航海 主席研究員 岡 英太郎(東京大学大気海洋研究所)

4/2 晴海出航



当初のレグ1観測プラン↓


午前10時、小雨模様の晴海埠頭を出港しました。最初に大槌(岩手県)沖の係留系回収に向かう予定が、荒天予想のため、いきなり相模湾へ。13時に逗子沖に到着し、待機です。

あらゆる観測機材をロープで固縛したのち、学生はさっそく大貧民大会。夜は研究者20名で親睦会。親睦を深めつつも、ところどころで熱いサイエンスの議論が勃発していました。

東京から釧路までのレグ1では北緯41度に沿って観測を行う予定ですが、果たしてどれくらい観測できるか。自然相手ですので、まさに人事を尽くして天命を待つしかない状態です。

4/3 相模湾で待機



↓研究室で今後の予定を検討中。予想より早く観測が始められることになり、議論にも熱が入ります。


低気圧が通り過ぎるのを待ちながら、相模湾で待機。午後には雨も上がり、富士山が顔を覗かせました。

明日の03時に出発して、大槌沖の係留系に向かうことに。さらにその後は釧路南東の1測点を経由して、一気に東に東経165度まで走り、次の低気圧をやり過ごす予定です。北緯41度線の観測は当初の計画とは逆に、東から西に向かって行うことになりました。このように海洋観測は天候・海況を見ながら、限られた時間の中で最大限の成果が挙げられるよう、常にベストの計画を練っていきます。

この航海の研究課題名は「中規模現象に伴う中央モード水の形成・輸送・散逸過程とその物質循環・生物過程への影響(1)」。私たちが観測を行うこの海域では、冬の終わり(3月ごろ)に海面から数百mの深さまで水が鉛直方向に混ざった「混合層」が形成されます。この混合層は春以降も海洋内部に残り、「中央モード水」と呼ばれる鉛直一様層となります。中央モード水の形成は空間的に一様ではなく、場所によって厚いものができたり、薄いものができたりします。この違いは、高気圧・低気圧の海洋版に相当する、直径100〜200kmの「中規模渦」に大きな影響を受けていると考えられています。その影響を明らかにするとともに、局所的な中央モード水の形成に伴う化学・生物過程、すなわち、海洋による大気中CO2吸収や植物プランクトンの光合成の度合いなどを調べるのがこの航海の目的です。さらに、海面水温の分布が大気に与える影響を調べるための気象観測、海洋から大気に放出される温室効果気体・反温室効果気体の観測、アルゴフロートの投入、三陸の沿岸に影響を与える外洋の流れを調べるために設置した係留流速計の回収など、公募に基づいた幅広い観測を実施します。

レグ1の乗船研究者は、北大・秋田大・東北大・国立環境研究所・気象庁気象研究所・東大・海洋研究開発機構・東海大・名大・三重大・愛媛大からの総勢27名。研究分野も海洋物理・海洋化学・海洋生物・海洋気象と多岐にわたり、バラエティ豊かな、楽しい航海です。

4/4 北上中





03時に相模湾を出発し、本州東岸に沿って北上中。18時現在、福島沖30kmくらいのところを航行中ですが、なんとこんな沖でもb-mobileの電波が入ります。

今日は晴れて暖かい、気持ちのいい1日となりました。海を見ながらサイエンス談義。昨日は銚子で40m/sの風が吹く大荒れだったそうで、今日もうねりがそこそこ残っています。まだ船に慣れず、居室で寝ている人も多かったようです。

観測船で海に出かけるというと、「船酔いしないの?」とよく聞かれますが、当然します。個人差が大きいですが、誰でも最初の数日は苦しいものです。それがだんだん慣れてきて、3週間ほどたつ頃にはどんなに揺れていても何とも思わなくなります。しかし、いくら慣れたところで乗船間隔が半年〜1年もある研究者は毎回リセット。次の乗船時にはまた船酔いからスタートです。

4/5 観測開始







↑本日の予定航路。衛星が観測する海面高度分布を毎日見ながら決めていきます。

05時大槌沖に到着。昨年10月に水深700mの海底に設置した流速計を回収すべく、音波で重りとの切り離しを掛けるものの、応答が全くありません。半年の間に壊れてしまったのか。。。残念です。

08時に離脱。これから、1時間半ごとに気象測定のラジオゾンデを放球しながら、釧路南東の高気圧性渦に向かいます。このゾンデ観測、昨年からの世界的なヘリウムガス不足により実施が危ぶまれたのですが、航海直前になって何とか調達でき、無事行うことができました。

今朝の4-8からワッチ体制がスタート。多くの研究者は0-4、4-8、8-0の3ワッチ班のどれかに属し、1日4時間×2、働きます。今日も晴れ。亜寒帯域に入り、海面水温2℃、気温5℃とぐっと寒くなりました。時折、イルカの姿も。

4/6 海洋観測開始


↑真夜中のCTD投入


↑CTDからの採水


↑アルゴフロートの投入


↑甲板でサッカー。結構、真剣


↑白鳳丸の現在位置(赤丸)。背景は気象庁提供の海面水温分布。これも参考にしながら観測点を決めています

01時高気圧性渦に到着。到着直前には海面水温が2℃から11℃に急激に跳ね上がり(渦の外縁の時計回りの流れが、南側の暖かい水を引き込んでいるのでしょう)、その後4℃台で落ち着いたと思ったら、今度は混合層の深さが一気に300mを超え、渦の中に入ったと確認。船に乗ってリアルタイムでモニターに表示される水温・塩分を見ながら、この変化はどういうことだろうと皆で議論するのは楽しいものです。

渦の中の測点でCTD(水温・塩分・溶存酸素をセンサーで測り、同時に各深さの水を取る)を2000mまで下ろし、次にFRRF観測(植物プランクトンの光合成の活性度を調べる)を行い、もう一度200mまでのCTD。採った海水サンプルからは実験室で塩分・溶存酸素を実測してセンサー観測値の補正を行うほか、栄養塩、炭酸系(全炭酸・全アルカリ度)、クロロフィルなどの濃度を測ります。

アルゴフロート4本を投入したのち、05時に測点を発ち、日本付近に近づきつつある低気圧から逃げるため、一路東へ。午後からは1時間半ごとのゾンデ観測を再開。現在、地図の赤丸の位置をほぼ真東に向かっているところです。亜寒帯前線を横切っているので、ゾンデ観測から、海洋前線が大気に与える影響を調べるいいデータがとれることでしょう。

今日も晴れ。気温は前線を横切る前は2℃程度。今航はじめてサッカーをやりましたが、寒かったです。でも1時間やれば、体もポッカポカ。今夜は美味しいビールが飲めそうです。

4/7 東へ


↑XCTD観測のパソコン画面を注視する研究者と、熱い視線を背中に受けて戸惑うオペレーターの学生


↑XCTDが測った水温・塩分断面を見て議論


↑↓バースデーお茶会




↑ゾンデ放球前になぜか円陣を組む0-4班


↑明日夜の波浪予報。オレンジの丸が現在位置、黄色の丸は明日午後到着予定の観測点

ゾンデとXCTD(使い捨て式CTD)観測を続けながら、ひたすら東へ。今回の観測の中心海域に達し、XCTD観測のモニターに熱い視線が集まります。

午後には、誕生日祝いのティータイム。数日振りに全員が顔を合わせ、話に花を咲かせました。

明日の午後には今回のメイン測線の東端(41-30N、165E)に到達予定ですが、後ろから追いかけてきている低気圧の発達により、どの程度観測ができるかは微妙。また1、2日、ヒーブツーして待つことになるかもしれません。


(2) 4月8日〜14日