日本は大陸棚とよばれる水深200メートルより浅い領域で囲まれていますが、そ
の沖に出ると海は急激に深くなり、水深は6000メートルを越えます。そのような
深海にも「深層大循環」と呼ばれる流れがあります。南極周辺や北大西洋北部で
冷却され海底まで沈んだ水が世界中に広がっていく大規模な流れのことで、日本
周辺の深海にある水も、もとをたどれば、はるか南極海や大西洋から長い年月を
かけて動いてきた海水です。けれども、その流路や流速などは海底の地形の影響
を強く受けるため単純ではなく、いまだに不明な点が多く残されています。
この深層の海流を調べるためさまざまな観測を行なわれます。もっとも直接
的なやり方が左のパネルに示した「係留観測」で、船から観測装置をロープに結
びつけて海中に投下して設置します。ロープは「重り」により海底に固定され、
「浮き」により上向きに張られます。ロープの途中に装置が取り付けられており、
いろいろな深さで流れを観測できます。設置した系は1〜2年後に再び船により回
収し、装置に記録されたデータを解析することで流れを知ることができます。実
物の係留系を屋外にも展示していますので、ご覧ください。
観測例として伊豆小笠原海溝における結果を示します。この海溝は伊豆半島
から小笠原諸島に至る海嶺のすぐ東に位置し、水深は9000メートルを超え(断面
図をご覧ください)、きわだって深い場所です。このような深海にも流れはある
でしょうか?
われわれは、1987年から10年間、海溝のいろいろな場所で係留系の設置・回
収・再設置を繰り返してきました。全流速計の位置と最新データであるN1とO1の
流速変化を示しています。流れはほぼ南北であることがわかりましたので、南北
方向の流速成分だけを示しています。流速は時間とともに変化し、時には逆向き
になりますが、おおむね海溝の西側のN1では南向き、東側のO1では北向きです。
これは海溝に設置したすべての流速計にあてはまる特徴です。向きがほぼ南北で
あることは流れが海溝にそって流れていることを示し、最深部をはさんで西では
南向き、東では北向きということが明らかになりました。流速の大きさは海溝の
東側で強く、O1では25cm/sを越える値も観測されています。黒潮の流速が
100cm/s程度ですので、深海ということを考えると、意外なほど強いといえるで
しょう。その流れを模式的にも示します。東西のそれぞれの流れがどこから来て
どこに行くのかなど、新たな疑問点もわいています。
|