この文書は, 1997年海の日に実施された東京大学海洋研究所一般公開における 海洋物理部門の出展物 の一部(ポスター)を HTML 化したものです. 「海の日」のポスターは, 左右におかれた2枚で構成されていましたが, ここでは上下2段としています. 画像をクリックすると拡大図が表示されます.


伊豆小笠原海溝を流れる深層海流の観測

海洋物理部門

海の中にはさまざまな流れ(海流)があります。 日本の南を流れる「黒潮」(くろしお)は日本の気候や漁業に影響を与えるため 有名です。しかし、海の数千メートルよりも深い部分にも流れがあることはあま り知られていません。このような海の深いところの流れを測定する方法と、水深 1万メートル近い伊豆小笠原海溝で行なった観測結果を紹介します。

深海流速観測のための係留系の構成 研究船上での係留系設置作業の様子
深海の流れを流速計ではかるため、このような係留系を組んで設置します。
係留系摸式図 設置写真1
信号ブイとその下に続くブイの投入の直後の様子です。係留系の設置は 信号ブイの投入から始めて、係留系の上の方から順番に海に投入していきま す。写真左には次に投入するブイが甲板に用意されています。
設置写真2
ブイと流速計を海に投入する直前の様子です。研究船の後部にはこのよ うな滑車付きのワクがあり、これを倒したり立てたりして重いものを持ち上 げ海の方へ動かして投入します。


伊豆小笠原海溝の係留系配置図
海溝断面図 測流結果

日本は大陸棚とよばれる水深200メートルより浅い領域で囲まれていますが、そ の沖に出ると海は急激に深くなり、水深は6000メートルを越えます。そのような 深海にも「深層大循環」と呼ばれる流れがあります。南極周辺や北大西洋北部で 冷却され海底まで沈んだ水が世界中に広がっていく大規模な流れのことで、日本 周辺の深海にある水も、もとをたどれば、はるか南極海や大西洋から長い年月を かけて動いてきた海水です。けれども、その流路や流速などは海底の地形の影響 を強く受けるため単純ではなく、いまだに不明な点が多く残されています。

この深層の海流を調べるためさまざまな観測を行なわれます。もっとも直接 的なやり方が左のパネルに示した「係留観測」で、船から観測装置をロープに結 びつけて海中に投下して設置します。ロープは「重り」により海底に固定され、 「浮き」により上向きに張られます。ロープの途中に装置が取り付けられており、 いろいろな深さで流れを観測できます。設置した系は1〜2年後に再び船により回 収し、装置に記録されたデータを解析することで流れを知ることができます。実 物の係留系を屋外にも展示していますので、ご覧ください。

観測例として伊豆小笠原海溝における結果を示します。この海溝は伊豆半島 から小笠原諸島に至る海嶺のすぐ東に位置し、水深は9000メートルを超え(断面 図をご覧ください)、きわだって深い場所です。このような深海にも流れはある でしょうか?

われわれは、1987年から10年間、海溝のいろいろな場所で係留系の設置・回 収・再設置を繰り返してきました。全流速計の位置と最新データであるN1とO1の 流速変化を示しています。流れはほぼ南北であることがわかりましたので、南北 方向の流速成分だけを示しています。流速は時間とともに変化し、時には逆向き になりますが、おおむね海溝の西側のN1では南向き、東側のO1では北向きです。 これは海溝に設置したすべての流速計にあてはまる特徴です。向きがほぼ南北で あることは流れが海溝にそって流れていることを示し、最深部をはさんで西では 南向き、東では北向きということが明らかになりました。流速の大きさは海溝の 東側で強く、O1では25cm/sを越える値も観測されています。黒潮の流速が 100cm/s程度ですので、深海ということを考えると、意外なほど強いといえるで しょう。その流れを模式的にも示します。東西のそれぞれの流れがどこから来て どこに行くのかなど、新たな疑問点もわいています。

伊豆小笠原海溝の流れの摸式図
流れの摸式図